黒と白の鍵盤

エピソード文字数 435文字

 白鍵に
 死をのせて
 奏でる
 その音色が
 人生に似たとして
 震える空気が
 生きるわけでもない

 黒鍵を
 死なせたまま
 奏でる
 その響きが
 霊園に似たとして
 受けとるこころが
 悼むわけでもない

 ピアノの鍵盤がなぜ
 黒と白に別れているか
 子どものころの
 夏の日の退屈な時間に
 答えが出るまで考えつづけたと
 あの人はいつか話していたっけ
 どんな答えを見出だしたと言ったかは
 忘れてしまった
 考えにふける彼女の時間が
 どこかの夏でまだつづいているような
 奇妙な白昼夢に襲われて

 あの人がいなくなったいまも
 その問いを時々思い出す
 ピアノの鍵盤はなぜ
 黒と白に別れているか
 正しい答えを知ろうともしないまま
 問いはいつしか変容し
 善と悪はなぜ別れているか
 生と死はなぜ別れているか
 そんなふうにいまも
 彼女がどこかで問いつづけているような
 問われているのは自分であるような
 身勝手な夢にいつまでもふけって
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