日々の義務

文字数 619文字

 優れた言葉と優れた音楽に触れることは
 日々の義務だ
 そう自分に言い聞かせて
 聖務のように
 自分が知り得た最上の叡智に触れる
 そうしないと
 こころは溶けていくばかりだから

 だがそれも結局は
 自分の空白から逃避しているだけなのか?
 なにもない自分と向き合わない方便なのか?
 わからない

「虚無へ行きつくまでの行為はすべて悪であり、虚無より這ひ出る行為はすべて善である。私は善悪をそのやうに判別する以外に判別の方法あるを知らない」

 その作家の弁は正しいか?
 わからない

「それ故虚無とは確信の困難な持続を指すので、断じて敗北の意味を成さぬ。あらゆる思想は虚無を脱出する所に始まるのかも知れない。だが虚無の場からする抵抗の終わる所に宿命の理論はやむのである。宿命の理論のやむ所に、芸術の思想もまた終るのである」

 その詩人の弁は正しいか?
 わからない

「不幸な人の「なぜ」にはいかなる応答もない。なぜなら、わたしたちが生きているのは必然性のうちであって、合目的性のうちではないからである。この世界に合目的性があるならば、善の場所は、もうひとつの世界ではなかろう。わたしたちが世界に向けて合目的性を求めるたびに、世界はそれを拒む。だが、世界が合目的性を拒むことを知るためにこそ、合目的性を求めなければならない」

 その哲学者の弁は正しいか?
 わからない

 すべて無意味であろうとも
 言葉と音楽は
 自分の前に現れたなにかなのだ
 こころが死ぬのをとどめおくような
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