第178話 「官と民」

文字数 622文字

 NHKの大河ドラマの「青天を衝け」は、農民出身の渋沢栄一の物語だが、見方を変えると官と民の物語だとも捉えられる。お上に敢然と立ち向かった一農民の出世物語だ。
 官と民という言葉はあまり好きになれない。簡単に言い換えると、偉い人とそうではない一般の人と捉えられ、何だか差別用語の原点がここにあるように思えるからだ。



 この言葉を身近に聞いたことがある。それは四十年ぐらい前のことだ。運動不足解消にために、近くの小学校で行われている父兄向けの卓球クラブに入会した。男性メンバーの大半が近くにある官舎に住んでいる人たちだった。彼らはそれぞれどこかの省に勤務する人たちなのだ。
 徐々に親しくなり、そのクラブのリーダーをやっている人とお付き合いすることとなった。その方は法務省の人だったが酔っぱらうと、この「官と民」という言葉をよく使った。最初は何のことだか分からなかったのだが、官とはわれわれ役人のことであり、民とは君たち一般人のことだと理解できた。もう彼にはこの官という意識がしっかりと身についており、それが当たり前の感覚だったのだ。世の中にはこういう人がいるのだということを知った出来事だった。
 明治維新後、封建制度はつぶれたけれど、代わってこの「官と民」という考えや現実があちらこちらに垣間見える。公務員と民間人、財閥系の会社とそうではない会社、JやNが頭文字に付く会社、上から目線の人、役所的ものの考え方、いまだに官吏養成のための東大、などなど。



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