第280話 形見

文字数 449文字

 いつものウオーク、今にも降り出しそうなので、玄関に吊るしてある折りたたみ傘を持ってでた。この傘は、父の形見なのだ。母のものは多く残っているのだが、父のものはこれ以外にすぐには思いつかない。母が父のために買って与えたであろう、スリムでしっかりとした作りのものだ。自分にとっては、今でも使い続ける大事な愛用品だ。少なくとも、買ってからは40年ぐらいは経過しているだろう。
 母の形見は、小物入れや母手作りのショール(ひざ掛けに使っている)などを今でも愛用しているものが多い。特に母からの歳時記は、重宝の品だ。俳句に興味を持ち出したときに母からプレゼントされたのだ。裏表紙に震災の年の日付があった。


        銀閣寺



 老年の今、自分は多趣味で日々に退屈することがない。本当に幸せなことだと思う。将棋、絵、カメラなどは、父からの影響で、俳句や出歩きは母からのものだろう。
 そうして考えてみると、父の遺品はほとんど無いけれど、趣味として多くのものを自分に残してくれたことが何よりの形見だと思う。


  清荒神
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