第６４４話　裏切り

　人生には裏切られるということが起きる。大谷祥平は水原一平に裏切られてしまった。その辛さは自分にも経験があるだけによく分かる部分もある。信用、信頼していた人に裏切られることは、身を切られるほど辛いもの。それは自分がその人を見誤ったことになるからだ。だから自分は、その裏切りが無かったかのごとく最後の最後まで信用しようとした。しかし、残念ながらその人は何事も無かったかのごとく自分から離れていった。一言の侘びの言葉もなく。裏切った人との気持ちは、裏切られた人には分からない。分からないからそんな甘い自分を裏切り続けたのかも知れない。他人が忠告してくれたこともあった。しかし、その言を受け入れようとはしなかった。一旦信用したのだからという馬鹿正直な気持ちが災いしたのだ。本人が自分の裏切りに僕が気づいたと思ったときには、もう冷静に自分を判断する能力が無かったのだと思う。否、裏切りそのものが悪いことだと思っていなかったのかもしれない。もう僕の利用価値がなくなったと思ったのだろう。



　それが今回の大谷と水原の関係だと思う。嘘をつきとおせない状況に水原は追い込まれてしまって、事が露見したのだ。でも、今回にことは大谷にとって人生でのいい勉強になったと思うし、その時期が早かったのは幸いだ。彼にとってはほんのかすり傷程度の軽症に終わりそうだ。