第571話 歌に私は泣くだろう

文字数 644文字

 永田和宏とその妻、河野裕子の本を読んでいる。久しぶりに買った本だ。最近は本を買うことが激減した。図書館で借りて本は読むものというのが当たり前になっている。以前、バブルのころは、知人が経営の本屋でどっさりとまとめて本を買っていた。心に中にそれをかっこいいと思う自分がいた。いわゆる旦那買いだ。それを思いおこすと、地球がひっくり返ったような気持ちがする。ちょっとオーバーだが、今がこれが普通のことなのだ。


   松が玄関を睥睨している?


 この本(520円、税別)は自分の身銭を切って買い、じっくりのそばにおいて読まねばならないと思ったからだ。細胞生物学者であり歌人でもある永田と、その妻との闘病10年の記録だ。妻、河野は角川短歌賞を受賞するという才能ある歌人。二人とも宮中歌会始の選者だ。心の動きが二人の短歌を通して見事に伝わってくる。
 その中の短歌を数首紹介する。
・ 何といふ顔して我を見るものかわたしはここよ吊り橋ぢゃない 裕子
   (癌と診断された妻をまともにみられない永田のこと詠んでいる)
・ ああ寒いわたしの左側に居てほしい暖かな体、もたれるために 裕子
   (術後にいなかった永田を寂しがっている河野の心情)
・ 骨シンチ受けている頃なり横浜のみなとみらいなぜわれは居る 永田
   (手術直後に妻を残し学会へ出席している後ろめたい気分を詠む)
・ 切りだされし君が乳房の裏側の組織小さし組織皿のうえに 永田
・ 摘出されしなかの三個は明らかに腫瘍性なり母指頭大の 永田


   額縁の玄関?

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