第259話 天才

文字数 536文字

 藤井聡太が渡辺明王将に挑戦する第二局、藤井が王将に対し、まったく反撃の隙を与えずに完勝した。1日目の封じ手前から渡辺は苦戦を意識してか、表情もさえないし、盤に向かう姿勢にも迫力がなくなっていた。



 封じ手後の推移は、それを予測していたかのように、いつこの対局を終了させようかとさえ感じられるものだった。タイトル保持者としてのプライドは、様々ところに配慮が必要になってくる。対局場、大会関係者、多くの将棋ファンは、ぎりぎりまでしのぎを削る勝負を期待しているからだ。早く投げ出すわけにはいかないのだ。しかし、あまりにも藤井の完璧な指しまわしに手も足も出ない。早めの投了だったが、何とか体面を保つのが精一杯なようにさえ自分には見えた。
 それにしても何という強さだろう。まさしく天才がここにいると思わせてくれたのは、二人の対局姿勢に現れていた。王者が背を丸く考え込むのが目立つ姿勢に対し、藤井の背筋は、終始真っすぐに凛とした姿勢を崩さなかった。
 強いばかりではない。相手への配慮、気づかいを感じられる言葉、態度、全てに整っている。整いすぎているのだ。これはいったいどこから来るものだろうか。師匠や家族だけのものではないような気がする。生まれるべくして生まれてきた天才なのだろうか。



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