第432話 松鳳山

文字数 448文字

 松鳳山の引退会見での話が印象に残った。それは「初めて相撲を取るのが怖いと思った」というものだった。小柄だけれどあの真っ黒な顔と怖い顔で、勇敢にどんな相手にも正面からぶつかっていった彼の言葉だけに余計にそう思ったのだ。
 きのうも書いたが、中学時代、自分もエースの球を間近に見て恐怖心を抱いた。怖いと思ったら、もうそこで野球にはならない。デッドボールを怖がっていたら、もうそこで勝負はついているのだ。あの掛布の最後のシーズンのバッターボックスでの腰を引く姿が今でも思い出される。からだが恐怖心を抑え切れなくなっていたのだろう。



 スポーツをやっていて恐怖心をまともに感じたのはラグビーだった。小さい自分が恐怖心を上回る気持ちになれたときに、初めてラグビーの楽しさを知ることが出来た。恐怖心と楽しさ、面白さは相反するものなのだろう。
 軽量の力士であればこそ、この恐怖心が最大の敵なのだ。応援する宇良が、そのために体重を無理矢理にでも増やしている理由がそこにあるのかもしれない。


    尾道市 生口島にて

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