第246話 鬼のような将棋

文字数 567文字

 王将戦第一局を見た。一言でこの勝負を形容するとすれば、鬼のような将棋と表したい。鬼と鬼が、頭脳と頭脳をぶつけ合って闘ったのだ。投了直後の渡辺の紅潮した顔にそれを感じた。
 両者各8時間の持ち時間を使いきり、一分将棋での結末。詰むか詰まされるかの激闘は、見ていてハラハラ、こちらまでも胃が痛くなるような連続だった。詰め将棋力に一歩秀でた藤井の勝利に終わったが、最後の詰めは、解説のあの木村九段にしても読めていなかった。




 コンピューターも酷使すると熱を持つ。人間の頭も全く同じで、熱を発する構造は同じなのだろう。あまり頭を使いすぎて困ったことがない自分としては、全く想像のできない世界だ。
 正直に言うと、頭を使いすぎてその先の世界に恐怖感を抱き、何かの自動制御が働き、その場から逃げ帰る自分がいることを経験したことがある。いわゆる狂気の世界に飛び込むのが怖いのだ。
 考えて、考える。考え尽くす。両者の頭の中はいったいどうなっているのだろう。彼らにはその自動制御というブレーキが働かないで、どこまでも問いに対する正解を求め続ける能力があるのだろうと思う。普通の人と、そうではない人との違いがそこにあるのだろう。恐怖心より、自分がまだ見えていない世界を探求しようとする力のほうが優っているのかも知れない。
 普通の人で良かったのかもしれない。
 

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