第69話 白鵬の張り手

文字数 578文字

 昨日の白鵬と正代の相撲を、「白鵬の奇策」と新聞は騒ぎ立てた。八角理事長も「奇襲は弱いもののするもの。優勝回数の多い横綱があのようなことをしてはいけない。」とのコメントを出したようだ。
 大方の見方がそのような白鵬のなりふりを構わず、勝ちにこだわる姿勢を責めるものばかりだった。
 しかし、自分はこれとは違う感覚を抱いた。彼は、正代はじめ大関陣のあまりにふがいなさにカツを入れたのではないかと思ったのだ。白鵬はじめモンゴルの出身力士の活躍とは裏腹に、日本人力士のだらしなさは目に余るものがずっと続いている。解説の北の富士がため息をついたり、黙り込んだりするのは彼も元横綱として十分すぎるほど感じていることだと思う。
 白鵬はやがて引退後は部屋を持つだろう。彼は、ことあるごとに相撲協会はじめ関係者から横綱の品格や相撲の姿勢にたいして批判を受けてきた。国技という名を振りかざして自分を批判するなら、堂々と強い日本人の横綱が必要なのではないかと言いたいのだろう。国民も喉から手が出るほど待ち望んでいることだ。なのに、朝乃山のように生来の逸材が不祥事を起こしたり、ハングリーさが欠ける日本人力士が多すぎるのだ。そのあたりが、昨日の奇策、張り手に現れたような気がしてならない。彼の相撲協会の危機を支えた功績、過去のだれにも負けない実績がそう訴えた一番だったように思えた。



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