第135話 宇良と照ノ富士

文字数 681文字

 応援する宇良が、結びの一番で横綱照ノ富士と対戦した。番付は全く違うけれど、二人とも大けがをし、普通では復帰が見込めない序二段から這い上がってきた力士だ。なのに、仕切りの時にいつもの緊張感は宇良には見られなかった。ようやく横綱と相撲が取れるという位置に戻ってきたことへの満足感でいっぱいだったのではと推測する。宇良はいつもと違い、真正面から照ノ富士にぶつかっていった。自分の相撲を目いっぱい取りたかったのだろう。負けてもともとの気持ちだったのだと思う。



 相撲は宇良が横綱にまわしを取られないことを第一の作戦に考えていたようだ。粘りに粘り、館内は大歓声に沸いた。宇良が精一杯この一番にかけているのが観客に伝わったようだ。宇良の作戦は、元来が受け身の相撲取りだ。相手の出方を利用し、それを逆手にとって技を仕掛ける相撲だ。なのに、昨日の横綱はそれを十分熟知していたのか、自分から強引な仕掛けをしなかった。宇良は技を仕掛ける場面を見つけ出せなかった。
 体力面で劣る宇良が疲れてきたのを待っていた照ノ富士は、最後にがっちりと長い手で上手を引き、上手投げで勝負をつけにいった。宇良が振り回されて一回転する。しかし、宇良はまだあきらめていなかった。地獄からの最後の命綱を持って離さない。冷静な照ノ富士は、上からそのまわしへの手を切り勝負をつけた。



 宇良は負けたけれど、この一番で大きな自信をつけたのではと思う。横綱と精一杯取ってあそこまで相撲が取れた。このことはこれからの宇良の大きな尺度になるはずだ。4勝6敗となったが、明日からの相撲にこれを生かして勝ち越してほしいものだ。
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