第１４４話　映画「鳥」

　近場に歩こうとしてすぐ、雲の立ち込めた空を見上げて、ふと昔見た映画を思い出した。それはヒチコックの「鳥」という映画だ。映画館でそれを見て、大いに感動し、驚かされた記憶が焼き付いていたからだろう。主役のティッピ・ヘドレンやロッド・テイラー、スザンヌ・プレシェットの名前はきっちりと今でも覚えている。ヒチコックらしいサスペンス豊かな映画だった。
　今日見上げた空と、映画のラストシーンの空が何か似ていると思ったのだ。突然の鳥の襲来が人々を襲い、街に大きな被害を与えた日々がやっと終わり、鳥が跡形もなく飛び去った。やっと町に平穏と安心が戻ってきた朝のシーンだった。
　そんな思いが何となく心に浮かんだのには、やはりコロナによる緊急事態の宣言から解放された思いが重なったのかもしれない。長く続いたコロナ騒ぎがやっと峠をこえ、自由に安心して出歩ける日がもう目の前にあるという渇望の気持ちが自然に現れたのかもしれない。

　鳥が突然に姿を消した。しかし、その理由は分からない。コロナもここにきて、突然に申し合わせたように終息しようとしている。けれど、その確とした理由は誰にもわかっていない。