第639話 ヘボ将棋顛末記

文字数 832文字

 決勝戦の対戦相手は残った3人の中で一番組しやすい相手だった。実力者なのだが、強烈な攻めがないじっくり型なのだ。これはラッキーかも知れない。彼が来訪するまで練習将棋は断った。これは事前に考えた作戦の一つだった。当方の作戦は二つ、集中力と穴熊。決勝の前に一番でも指すとそれだけ集中力が失われることになる。自分の集中力には限界があるのだ。なので、彼の到着をじっと待っていた。



 対戦が始まり、一目散に右穴熊へと玉を動かしていく。それに相手は気づいたのだろう。凄く早い対応をしてきた。一気に潰してしまうとの考えに変えたようだ。1三の地点に大集結してきた。相手は歩、香車、角、桂馬の四枚。当方の守備は歩、香車、桂馬、銀の同じ四枚。仕掛けた方が分が悪いはずなのに、彼は仕掛けてきた。まだお互いの自陣守りができていないのに。焦ったのだろうか。潰せると思ったのだろうか。じっくりと考え、付いてきた歩を同歩と慌てず取った。香車でこの歩を取り、小休止。このまま行けば相手は失敗する。もちろんそこで局面はストップ。なので、当方は浮いてきた角の頭を歩で攻め相手の退却を図った。


   参考図

 相手には一枚どうしても駒が足らない。そこで、8筋の飛車先を付いてきた。これも慌てず同角と受けたが、まさかの飛車切り。取った角を端攻めに参戦させるのだろう。でも、相手には歩がない。歩が1枚あれば攻めにはなる。歩を渡さない。自陣を固める。そして、1二飛車と取った飛車を相手陣に打ち込んだ。これは敵陣をにらみながら、相手の香車を取る手だった。この手が決め手になり、その後の相手の強引な手をかわし、早々と相手は崩壊した。最後の必死の望みの手にも、きっちりと防御の一手で応酬し、予想外の一方的な勝利に終わった。
 正直なところを言えば、相手は組し易しと自分をナメテきたのだろう。それが彼の敗因だった。将棋は相手をナメタらやられる事が多いのだ。初優勝の美酒を早帰りの家で、じっくりと味わったことは言うまでもない。
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