第390話 棋聖戦第一局

文字数 452文字

 棋聖戦の第一局は大変な展開になった。千日手で二回の指し直しになり、永瀬の描いたとおりの読みで、初戦をものにした。永瀬の作戦は、自分からは攻めこまないで、藤井に攻めさせ、そのスキをついて反撃するというものだった。相撲でいうところの白鵬の「後の先」を実践したのだ。古武道では、「七分三分の見切り」という秘伝があるという。



 藤井に攻めさせ、相手が七分の力を出したときに、反撃に転じるというものだ。全くそれを絵に描いたとおりの展開となり、終盤は藤井に歩しか残らないという形に追い込んだ。それを如実に現したのが、永瀬と藤井の時間配分だった。勝負の分かれ目になった、86手目の7五同角の時点で、二人の残り時間に一時間の差が開いていた。この差を温存しての永瀬は最終局面まで間違いを犯さず、藤井に指し勝った。
 それにしても、いい勝負だった。永瀬は棋界最強の藤井の差し回しを一番よく知る棋士だということを証明して見せた。次が楽しみだ。お蔭で、棋聖戦は最低でも四局まで見ることができる。


    江戸時代の能面<彦根城にて>

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