第３６６話　村田諒太

　村田諒太のゴロフキンとの戦いに望むドキュメントだった。その一戦をメンタルトレーニングを通しての記録だった。
　どんな強いボクサーであっても、試合に臨むときには恐怖を感じるという。村田にしてもそうなのだ。恐怖とは、試合における死や致命傷への恐れだ。殴りあいのスポーツだから当然のことだろうと思う。逆に言うと、恐れを知らないボクサーは強いボクサーにはなれないのかもしれない。
　長期間のメンタルトレーニングを通じて、その恐怖にどう対峙して言ったのかが、村田の正直な声を通じてよく伝わってきた。心理変化は次のような過程を経過して昇華されていく。相手への「恐怖」、負けることへの「恐怖」から、それらから「逃げたい」という心の変化が生じる。しかし、「逃げる」ことを自分自身が許せないというプライド、「逃げる」ことによって、自分の人生への後悔を作りたくないという、心の変化へと転換する。前進しようと前向きになり、勝敗の結果より、100％出し切った勝負に徹しようと考える。それによって「逃げなかった」自分がいたことへの納得を得ることができるだろうと考える。


　　　京都バス旅

　結果は、ゴロフキンの経験の差が勝敗を決めた。しかし、その結果を納得して受け入れた自分がいたことで、人生の将来へ大きな財産を得たとの感慨を語っていた。
　全く、自分にも彼とは内容が違うけれど、同じよう経験をしている。どうしようもなくなった時点での開き直りが、今の老後人生に役立っているように思っている。