第485話 王位戦第五局

文字数 449文字

 王位戦第五局を見た。若き20歳の藤井聡太と32歳の豊島将之が、小さな将棋盤の前で二日間にわたって頭脳戦を繰り広げた。じっと観戦しながらふと思うことがあった。盤上に向かって真剣に考え続ける二人にとって、唯一無二の決断は次の一手だけなのだ。そこには、楽しい、嬉しい、幸せや不安といった心の動きはほとんど皆無に近いだろう。ただひたすらに思考を繰り返す二日間の戦いなのだと思う。次の一手に集中したほうが勝利をものにする。集中力の差が今回も勝敗の行方を決めたように思えた。次の一手に藤井は思考を繰り返し、三時間を越えることもある。尋常ではない頭を冷却するために、彼は水分を取っているように思えた。



 藤井は第一局に豊島に負けたあと、二局以降、全ての局面で押し気味に進めて防衛を果たした。全体を見れば、藤井の圧勝という今回の王位戦だった。テレビの解説に広瀬八段が登場していた。次月には彼と藤井の竜王戦が行なわれる。藤井の戦い方を見ていて、彼は尋常な手段では勝てないだろうことを言葉の端々に感じ取っていたようだ。



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