ミスター・メルセデス  MR.MERCEDES (2022/1/24)

文字数 937文字

2018年11月10 第1刷
著者:スティーヴン・キング  訳:白石朗
文春文庫



スティーヴン・キングが初めて手掛けたミステリーだということも、本作でアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)を初めて受賞したことも、まったく知らなかった。
そのことを知りえたのは昨年読んだキングの新作「アウトサイダー」の後書きのおかげだ。
「アウトサイダー」は超自然ホラー(キングお得意ジャンル)の中でも、かなり強烈なテイストの物語でありながらポリスサスペンスの要素も色濃い秀作だったが、そこで活躍する女性探偵が、別のシリーズからのスピンオフであるとの貴重な情報だった。そのシリーズがキングには珍しいミステリーだという…それが本書・・・お宝話だった。

そのシリーズ第一作が本「ミスター・メルセデス」、退職刑事とサイコキラーとの壮絶な心理合戦とクライマックスの息つく暇もないアクションに魅了される、
たしかに本作はミステリーアクションの名作であり、エドガー賞作であると納得した。
ミステリーとは言いながら、犯人であるミスタ-・メルセデスは最初から素性を含めて詳細な描写でその異常さが明らかにされる一方で、退職刑事としての鬱積した毎日とミスター・メルセデス(在任中に逮捕できなった)への滾る憎しみが交互に進行していく。
退職刑事そのもの、または彼の友人を殺戮の対象としてみたり、結局のところは拡大自殺大量殺人を願望するミスター・メルセデスの独自の狂世界を執拗に追いかけるシークエンスは、さすがモダン・ホラー第一人者の貫禄だった。
無論ミステリーの顛末を語るわけにはいかないが、読み終わってみればかってキングの小説や映画で体験したような高揚感を禁じ得ないのは、キングならではの読者満足度促進テクニックがいかんなく発揮されているからだということに気づく。

ホラーと言ってもいいサイコキラーのモノローグパート、老年の淡い恋エピソードの刑事パート、黒人であることのハンディキャップを克服する元刑事の相棒、同じく発達障害に苦しみながら探偵捜査の才能を開花するもう一人の相棒(彼女が僕を本書まで導いてくれた)パート、
ホラー作品でもそうだが、キングならではの人物創作の深みに、今回もまんまと嵌まってしまった、
それこそは至福の時だった。
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