モスクワの伯爵  (2021/1/23)

文字数 879文字

2019年5月20日 初版印刷 5月25日初版発行
著者 エイモア・トールズ AMOR TOWLES  訳 宇佐川晶子
早川書房



物語りはどんな状況を想定しても創ることができることを痛感する。
主人公は1922年から1954年までの30数年間モスクワの名門ホテル「メトロポール」に軟禁状態で
とどめ置かれたロストフ伯爵、むろんこれは革命政府の貴族階級への意趣返しでもあり、反革命的な詩を語った反逆罪の意味もあった。

それまで暮らしていた豪華スイートルームから屋根裏部屋に追いやられる境遇に、伯爵はどう対応していったか? これだけのテーマで単行本600頁を埋める才能にひれ伏してしまった。
共産主義なる体制を受け容れる伯爵ではあるが、あまりにも深い教養と博識をどのように自ら宥めるのか? これも興味深いサイドエピソードになってくる。
ホテル内でロビンソンクルーソーになると決意する伯爵、ここから始まるサバイバル人生が僕にとっては異文化に接すると同様なカルチャ―ショックになる。
ホテル従業員・・・・・・支配人・フロント・コンシェルジェ・クローク・ベルボーイ・理髪師・裁縫師・料理長・レストランマネージャ・バーテンダーたちが物語に加わってくる、もちろん、種々雑多な滞在客も。
特に、子供として出会ったニーナ、16年後その娘ソフィアとのめぐり逢いはこの夢物語のメインストリームになっていく。

本書には貴族として培われた教養の数々がちりばめられている、特にロシアが誇る文学・音楽への愛情が切々と伝わってくる。一方著者はボストン出身のアメリカ人エルモア、
ロシア人気質と同時にアメリカ人気質をアイロニカルに描く、その極みは本書のクライマックスにちゃんと用意されている。キーワードはボギー主演の「カサブランカ」、映画最後の脱出シーンと本書のカタルシスがかぶさってくる。
なるほどアメリカで140万部の大ベストセラーになったというのが腑に落ちた。
先日「賢者たちの街(2020年)」を読んで本書を知ることになった。
こんなに面白い小説を見つけられなかったことを反省している、まぁこんなこともあるけれど。
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