カード師 (2021/7/12)

文字数 711文字

2021年5月30日 第一刷発行 
著者:中村文則
朝日新聞出版



「南海ホークスの鶴岡一人」状態だった。
難解中の難解(南海ホークスといえば鶴岡監督)・・・という昭和オヤジギャグではある。

主人公のタロット占師は小さいころから、悪魔「ブエル」と親交を深めて自らの未来を知る・・・というオカルト世界に浸るところから本作は動き出す。
そんな経緯から本書には悪魔物語をはじめ、錬金術師、魔女狩り、ナチスの焚書など身元怪しげな手記が登場したりして、いやが応にも「難解度」は増してくる。
獅子の鬣を持ち、山羊の脚5足の悪魔ブエルなんて存在を知ることもなかったし、タイトルに
なっているカード師(主人公の副業)が仕切るテキサス・ホールデムというポーカーゲームも
知らなかったから、読む進むうちに難解ホークスに突き進むわけである。

中村文則文学のお約束でもある謎解きサスペンスの要素は後半残り五分の一辺りから始まる、
なんとなく安堵してしまったのは、これまでの難解ホークスのおかげだった。
主人公が占師を務める経済界の大物の数奇な運命がそのサスペンスパートになっている。
主人公と雇い主二人に関わる謎の女性も登場するが、このサスペンスは不発だった。
というか、このサスペンスパートは取ってつけたような感覚がして仕方がない、著者の想いは「人間の生と死」を突き放すような冷たい視線で眺めることにあったと思われる。
占いは当たらない、占いで助けることのできる命もない、カードであっさりと人生を打ち捨てることの快感、突然の疫病死、不条理な世界。
本作は、COVID/19蔓延のなかで蠢く人間の浅ましさ、赦しのない悪行をメタファーしながらも、生にしがみつく人間の性を笑っている。
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