サラバ (2023/7/5)

文字数 724文字

2017年10月11日 文庫版初版第1刷発行
著者:西加奈子
小学館文庫


ずっと気にかけていながら手にすることがなかった小説 「サラバ」。
著者の癌闘病ノンフィクション「くもをさがす(2023)」がとうとうぼくの背中を押してくれた、もう少し西加奈子に近づくことにしようと思い立った。

本書は2014年刊行、2015年直木賞、2017年文庫化された、著者10周年記念作だとのことだが、主人公が生まれるシーンから始まり37歳で小説を書き上げるまでの半生自叙伝の形で、特に家族愛憎をベースにし生きる目的を探し求める一人の弱い人間の本性と、そこから抜けきる経過を綴る長い物語になっている。
著者本人の経歴と重なるイラン生まれ、エジプト在経験が小説のキーにもなっているが、想像するにそのほかは緻密に仕組まれた小説作法に満ち満ちた作品だろう、すなわち頁をめくる愉しみが沢山盛り込まれている、過剰なくらいに。

だから、こんな物語は今までにもどこかで読んだことがあるよね・・・と思われてしまう恐れがあるのだけれど、それでも引き込まれるように主人公に寄り添ってしまうのはひとえに著者のパワーのなせるところだ。
両親の離婚、姉の生活不適応、友人との邂逅と別れ、怪しい宗教、恋愛できない主人公・・・確かにどこかで一度覗いたことのあるようなエピソードが編み込まれ、阪神大震災、東日本大震災、NYテロ、アラブの春などの世界的ディザスターも適役を果たしている。

大テーマが「信じるものを見つける(文字通りの)旅」とは恐れ入る、信じるものを70年以上生きてきて見つけることのなかった、いや探すこともしなかった僕には、本作はやはり一つの小説として、だが出来の良い小説として受け取るしかできなかった。
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