ザ・カルテル (2016/5/26)

文字数 953文字

2016年4月25日 初版発行
著者:ドン・ウィンズロウ 訳:峯村利哉
角川文庫



メキシコの麻薬戦争を描いて僕に未知の世界を開いてくれた「犬の力(2005年)」
から10年を経て、あろうことか名作の続編が誕生した。
「犬の力」が1975年から2004年までの30年間の麻薬捜査官(DEA)と麻薬王の長い戦いを描いていた。
そして本作は、2005年から2014年までの、10年間のその後のメキシコの麻薬組織の絶望的な抗争を、上記二人の宿命的確執を中心に描いている。
文庫本2冊 1000ページに及ぶ、21世紀最大のクライム・サーガと喧伝されるが、前作以上の濃密な、残虐な展開に終始していて、読み進めるにかなり体力と集中力が必要だった。
アメリカの捜査官と麻薬王の物語にとどまらず、今回はメキシコ各地の麻薬組織の仁義なき戦い、その勢力を統一しようとする権謀の数々、メキシコ政府、警察、軍隊を取り込んでいく麻薬カルテルの細やかなエピソードが骨太に語られている。

実際に、この10年間の麻薬戦争で殺害されたものは10万人を超えるといわれ、その中には一般市民も含まれている。
また、警察力がカルテルに蹂躙されて機能していない地方では、殺し合いの連鎖が止まらず、治安部隊としての軍隊もカルテルに取り込まれている。
メキシコは、麻薬カルテルが統治している状態になっていた。
その原因を作者はアメリカの麻薬購買力とその組織だとする、つまり高価格で維持された密輸品ビジネスは根絶できない、誰かが後を継ぐ。
麻薬ビジネスは膨大な利益を生み、一方ではアメリカから相当な武器が流入する。
メキシコはアメリカの麻薬娯楽のための供給元であり、その利益は上部階級にのみ還元される、
ここでも貧者、弱者の収奪と格差の広がりがあると指摘する。

それにしても、毎日死体が転がる都市に住み、カルテルの報復を怯えながら生きていく人たちが本作では確りと浮かび上がっている。
カルテルに抵抗する勇気ある人、その恫喝に屈する人、カルテルの殺し屋として人間性を失っていく人、ただただ復讐に生きる人。
アメリカの法執行機関は効果的な策を打てないが、近年になって取り締まりから「テロ対策」へと舵を切った。
つまり、速やかに処分するのみ・・という対応である。

ようやく読み終えて、大きな溜息をついた。
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