【こころ】 【坊ちゃん】 (2014/6/7)

文字数 672文字

1996年3月第1冊 2012年8月第9刷
著者:夏目漱石
文春文庫



文春文庫にある「現代日本文学館」に収められているこの2作は、
漱石の初期と後期の名作である。
当文庫の狙いは、その意味で大胆で解りやすい。
まさに還暦文庫の目的にぴったりのセレクションになった。
2作ともに、実に読みやすかったが、過去に読んだ折にはこの印象は全くなかった
(ような気がするが、自信はない)。

「こころ」では圧巻の長文手紙、流れるような人生の回顧に引き込まれてしまう。
これは20代で理解できる懺悔でもなし、今になって自分の心に沁みこんできた。
「こころ」は、逆説的ではあるが人生讃歌ではないかと推察した。
人が一生を生きる苦しみは人にしかない特別な想いの塊なのだろう。

「坊ちゃん」は青春痛快物語と記憶していたが、今回楽しく読んでみた結果、
実はSF短編小説だと気づいた。
坊ちゃんは、江戸時代からタイムスリップしてきた御家人、その許嫁が「清さん」だった。
そう考えれば、清との温かい交流が理解できる。
生計のために益体もない西洋科学(坊ちゃんは数学、漱石自身は英語)に縛られるものの、
本来の儒教精神を爆発させるのは異なる時代から来たためだろう。
徹底的に松山を田舎として馬鹿にしてしまうのは幕藩制度の意識からである。
明治政府は中央集権国家を目指して、坊ちゃんが軽蔑する田舎にも管理強化を図っていた。
タイムスリップしてきた坊ちゃんはもはや江戸時代には戻れない、
そのストレスが国家管理に向けて噴き出したのだろう。
この見解はスティーブン・キングの「11・22・63」にインスパイア―されたものです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み