輪違屋糸里 上・下 (2023/8/12)

文字数 1,064文字

2004年5月30日 第1刷発行
著者:浅田次郎
文藝春秋


頁に挟まれていた中古書店伝票によると2015年2月に買い取っている、とすれば8年間も積読状態だったことになる、名著に対して誠に申しわけない取り扱いだった。
本作は「壬生義士伝(2000)」に続く新撰組異聞というか、浅田式大嘘物語りなのだが、ぼくが浅田ワールドに取り込まれたのは2015年からだから、中古購入はちょうど晩熟の信奉者となったころであり、この頃一気に浅田噺を読み漁った時だった。
そのために浅田さんの古い作品を中古で買い集めたのも大人げないとはいえ、手を付けなかった作品がずっと積まれたままになっているのもお恥ずかしい限りだ、本書はそんな読むタイミングを逸してしまった作品の一つである。
文字通りの積読状態を解消すべく、新刊の合間をぬって読む努力をしているがなかなか終わりが見えてこないのを、近頃のお決まりの加齢のせいにしている・・・・目が疲れる、眠くなる、集中力が無くなる、などを愚痴っている。

さてさて、
本書の帯コピーに 「壬生義士伝」を超える浅田版新撰組」とある。壬生義士伝は新撰組のなかでは無名の隊員を主人公にしたお涙頂戴巨編だったに対して、本書はみんながよく知っている新撰組メンバーが、そう全員が均等に描かれている。
ただし、これまでの隊員のイメージ(あるいはぼくのイメージ)はかなりの程度覆されることになる、特にヒールである芹沢鴨、燃える男土方歳三は浅田マジックで大変身していた。
ベースにあるのは浅田さんのリベラル思考、武士を頂点とした身分社会への徹底的批判である。
人間らしく愛と真実に生きる事ができなった男たち、愛する男のために生きあるいは死に殉じる女たち。
歴史に大きな痕跡を残した新撰組黎明期、そこに関わった京の人々、浅田式徹底した人物描写と格調高い日本文が眩しかった。

余談だが、浅田時代劇小説には新撰組異聞として「一刀斎夢録(2011)」という斎藤一のモノローグ小説があるので、新撰組物は三作になる、人切り新撰組の本音が明治維新の中できらめく。
浅田時代小説が江戸末期の混乱を好んでテーマにしているのも、権力体制の名のもとに虐げられる無垢の人々への愛が深いからだ。
「憑神(2005)」、「赤猫異聞(2012)」、「一路(2013)」、「黒書院の六兵衛(2013)」、「大名倒産(2019)」、「流人道中記(2020)」の長編、
「五郎次殿御始末(2003)」、「お腹召しませ(2006)」の短編集、これらすべてそのスピリッツに支えられた名作(集)になっている。
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