知ってるつもり 無知の科学 (2019/1/6)

文字数 2,158文字

2018年4月15日 初版発行、4月25日 3版発行
著者:スティーブン・スローマン フィリップ・ファーンバック 訳:土方奈美
早川書房



「サピエンス全史」、「ホモ・デウス」著者のユヴァル・ノア・ハラリの称賛コメント(?)が愉快だ・・・
『著者らが正しければ、有権者や消費者により良い情報を与えることは無意味に等しい』・・恐ろしい警告だ。

本書は三つの主題がある:
1.無知
2.知識の錯覚
3. 知識のコミュニティ
以下、本書からの含蓄ある記述を抜粋させていただく:

「本書の議論から導き出される結論は単純なものである・・といった錯覚を我々は持っていない。本書の教訓は、無知を解消するため、コミュニティで幸せに暮らすため、あるいはあらゆる錯覚を打破するための秘策などではまったくない。むしりその逆だ。無知は避けられないものであり、幸せは主観的なものであり、錯覚はそれなりに役割がある。」(結び章:無知と錯覚を評価する)

「政策の影響は、それに対する自分の気持ちを考えているだけではわからない。政策そのもの、すなわち具体的にだれがどのように実施するのか、その世界では次に何が起こるかを考えなければならない。このように自分以外に思考の対象を広げることが、人々に政治的立場をより柔軟にするのに不可欠なのかもしれない。自らの関心や経験の枠から踏み出て思考することが、人々の思い上がりを戒め、意見の両極端化を抑えるのに必要なのかもしれない。因果的説明は、説明深度の錯覚を打ち砕き、人々の立場を変えられる唯一の思考方法なのだろうか。」
(第九章 政治について考える)

「優れたリーダーは、人々に自分は愚かだと感じさせずに、無知を自覚する手助けをする必要がある。容易なことではない。目の前の相手だけでなく誰もが無知であることを示す、というのが一つのやり方だ。無知というのは純粋に自分がどれだけ知っているかという話である。一方、愚かさというのは他者との比較である。誰もが無知なのであれば、誰も愚かではない。
優れたリーダーは個別の問題について深い知識を有している人々を周囲に配置し、知識のコミュニティを形成する。それ以上に重要なのは、優れたリーダーはこうした専門家の意見に耳を傾けることだ。意思決定をする前に、時間をかけて情報を集め、他の人々と相談するリーダーは、優柔不断で頼りなく、ビジョンがないと思われることもある。世界は複雑で容易に理解できないものであることを認識しているリーダーを、きちんと見極めようとするのが、成熟した有権者である。」 (第九章 政治について考える)

「知識のコミュニティに生きているという事実を受け容れると、知能を定義しようとする従来の試みが見当違いであったことがはっきりする。知能というのは、個人の性質ではない。チームの性質である。難しい数学問題を解ける人はもちろんチームに貢献できるが、グループ内の人間関係を円満にできる人、あるいは重要な出来事を詳細に記憶できる人も同じように貢献できる。個人を部屋に座らせてテストをしても、知能を図ることはできない。その個人が所属する集団の成果物を評価することでしか、知能は測れない。」(第十章 賢さの定義が変わる)

「私たちが個人として知っていることは少ない。それは仕方のないことだ。世の中には知るべきことがあまりにも多すぎる。多少の事実や理論を学んだり、能力を身につけることはもちろんできる。だがそれに加えて、他の人々の知識や能力を活用する方法も身につけなければならない。
実はそれが成功のカギなのだ。なぜなら私たちが使える知識や能力の大部分は、他の人々のなかにあるからだ。知識のコミュニティにおいて個人はジグゾ―パズルの一片のようなものだ。自分がどこにはまるかを理解するには、自分が何を知っているかだけでなく、自分は知らなくて他の人々が知っていることは何かを理解する必要がある。知識のコミュニティにおける自分の位置を知るには,自分の外にある知識について、また自分の知っていることと関連のある知らないことに自覚的になる必要がある。」(第十一章 賢い人を育てる)

本書「無知の科学」(知識の幻影)は序章で1954年ビキニ環礁での水爆実験(キャッスル・ブラボー)の悲劇から説き起こす・・・
曰く「なぜ人類はほれぼれとするような知性と、がっかりするような無知をあわせ持っているのか?」と。
そして読者に問いかける・・・「毎日使っているトイレの仕組みを知っているか?」と。

我々は無知であっても毎日生きていくことに不便を感じていない。
しかし、自分が無知であることを理解したその先に、どのような生き方が見えてくるのか…を本書はもしかしたら導いてくれるかもしれない。
古希2019年最初の図書、なかなか意味深い一冊だった。

章立て:
序章: 個人の無知と知識のコミュニティ
第一章:「知っている」のウソ
第二章:なぜ思考する
第三章:どう思考する
第四章:なぜ間違った考えを抱くのか
第五章:体と世界を使って考える
第六章:他者を使って考える
第七章:テクノロジーを使って考える
第八章:科学について考える
第九章:政治について考える
第十章:賢さの定義が変わる
第十一章:賢い人を育てる
第十二章:賢い判断をする
結び章:無知と錯覚を評価する
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