真実 新聞が警察に跪いた日 (2014/6/10)

文字数 1,145文字

2014年4月25日 初版
著者:高田昌幸(元 北海道新聞報道本部次長)
角川文庫



現役の新聞記者によるノンフィクション、テーマが《権力 対 言論の自由》、
そしてその結末から日本は大きく舵を切っていることを感じて背筋が寒くなる。
本書が取り扱うのは10年前の「北海道警(道警)裏金」を追求した北海道新聞(道新)が警察の反撃にあい、何故かその言論の番人の地位を自ら捨て去る経緯である。

ブロック紙の雄である道新が当時「道警の裏金」調査報道をやっているらしいということは全国紙(毎日)の読者として、その他メディアの報道でも記憶にはあった。
今回本書に接して、地方メディアが地元の警察との良好な関係(馴れ合いともいえる)を断ち切って 警察権力を追求するのは異例であり、摩擦の多いことだと思い至った。

事実、道警の裏金問題はTV(在東京)のスクープ放映から発したものである。
道新の取材チームは純粋に「間違ったことを明るみに出そう」という思いからの
調査報道だったとのことだ。
道新専任取材チームは2003年度の新聞協会賞、日本ジャーナリスト会議大賞、
菊池寛賞を受賞する。

が、ここから道警の反撃が始まる。
当時道警ナンバー2であった人間が、名誉棄損で提訴、その間道新幹部が部下を売り渡して警察と復縁しようとする。
本書はその長きにわたるドロドロとした交渉経緯、一方では道新内部の切り崩し、反発などがレポートされている。
もとより、本書は取材チームのリーダーの視点での見解であるから真実はどちらにあるかは読者の判断になる。

僕は「裏金作り」や、「裏金のキャリアへの献上」などということは、
家庭環境のおかげで昔からとっくに承知している。
ちょっと驚いたのは、かの有名な「拳銃押収の伝説の稲葉警部」がインタビューの中で
警察と税関と暴力団が麻薬密輸を実行したと証言していることだ。
彼は、麻薬使用、暴力団交際で逮捕され、前代未聞の不祥事と騒がれたことで
さすがに僕も知っていたが、
真実はもっと暗い闇の中にあった。

これらはすべて「秘密」のキーワードに集束する。
捜査費と称して捜査の「秘密」を盾に使途が不明の巨億の金。
正義のために使用するとはいえ、「秘密」でいいのであれば、
人間は悪人になってしまう、腐ってしまう。
結局は組織のために使うという大義名分で、私用に走ってしまうのが人の弱さだ。
恐らくは、警察の「裏金」は決してなくならない、そこに「秘密」の大義があれば。

そして、著者が論を進めてきたのが「秘密保護法」。
犯罪捜査費用の裏金から説きはじめて、最後に「秘密保護法」の恐怖を思い知らされる。
「秘密」それも国家(?)の大義のためには言論はおろか、自由、平等、透明など
一瞬にして反古になる・・・恐れがある。

本年随一の渾身のノンフィクションだった。
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