父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない (2019/7/10)

文字数 990文字

2019年4月30日 第1刷発行
著者:橋本治
朝日新書



今年(2019年)1月に亡くなられた橋本治さんの遺稿のようなもの、
最後の部分は病院のベッドで書いているとの記述もある。
最後まで明晰な分析と軽妙な語り口だったが、さすがに結論部分では駆け足になっていたのが哀しい。

本書の概略を、カバー裏の要約でご紹介する:
《「父はえらい、男はえらい、だから説明能力がなくてもいい》
そんな馬鹿げた世界は、とっくの昔に崩壊している!
トランプ大統領の出現後、日本の組織でもパワハラ、セクハラがあらわになり、官僚や大学のオヤジ体質が暴かれていく。男たちの「理論」が通用しない時代に、なぜ「父権制の亡霊」がはびこるのか。
都知事選の変遷、ハリウッド映画の分析、学生運動の成り立ちから政治家のスキャンダルまで、
あらゆる現象を歴史的にひもときながら、これまでの「当たり前」が失効する世界の到来を説く。
—引用終わり―

興味深かったのは、現在政財界で流行しているらしい「忖度」の考察。
都合の悪いスキャンダルが表に出るたびに「みんな嘘」とか「関係の無いことであります」と言って説明をしようとしないトップがいる(とする)。
説明ということは対等の関係を前提とする、対等の立場で相手に知らせる必要があればこそ説明は成立する。説明不足であれば、もう一度ちゃんと説明してほしいと頼むことは無礼ではない。
ところが家父長的妄想にとらわれている家長オヤジに接する下位の人間は独特の説明をする。
相手の上位者がこの肝心の説明能力に欠けている場合、相手が了承できるように正確さよりも呑み込みやすさを優先して説明する。
その時に大きく嘘の方に説明が傾くことがある、これが忖度の(現在問題の忖度の)弊害である。

橋本さんはこう結んでいる・・・・
組織はトップのものではない、家は男のものではない、
今アメリカで、ロシアで、中国で、北朝鮮でそして日本でも、内向きで周囲の声に耳を貸さない人だけが指導者になれるというのは、逆説的に言えば、時代がそこで止まってしまっていること。
もはや一人の人間に権力を預けて「指導者」というのを止めて、代表者が複数いてもいい在り方を検討すべきではないか。
手近なところでは夫婦別姓で、二人で構成するものを無理に一人に限定しないことからでも始めよう・・・・と。

いやはや波乱万丈の内容だった。
大きな知性がまた一つ消えていった、悲しい。
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