水車小屋のネネ (2024/1/23)

文字数 1,083文字

2023年3月5日 第1刷 10月15日 第7刷 
著者:津村記久子
毎日新聞出版


宣伝コピーには、「希望と再生の物語」そして「誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ」・・・とある。
そのコピーの通りに物語が粛々と進行していく、波乱も逸脱もなく。

4話構成で、それぞれ1981年、1991年、2001年、2011年、2021年と10年単位の経過をぼくは知らされる、その内容は18歳と8歳の姉妹が親から逃れて独立し生活に挑む姿だった。
母親の再婚相手の父親から妹を守るための勇敢な行動は、その後40年間変わることなくそのスピリッツは妹に受け継がれる。

姉妹が決して屈服することがなかった日常を支え続けたのが「ネネ」、タイトル通り水車小屋で働き人間とおしゃべりができる鳥。ヨウムという大型インコのネネは寿命が50年、本作物語を悠々と生き抜いていくその姿に、宇宙の神秘を感じた、それは神や仏陀につながる。
と言って、ネネは教祖などではなく、いたってヤンチャな愛すべきマスコット、音楽への造詣が深く好きな楽曲を唄うことができる。

そんなネネと姉妹に新しく巡り合う人々が物語に加わる。
姉妹と同じように、生き辛さから逃げてきた人々がネネに引き付けられるように集まってくる。でも、悪人は一切登場しない。
優しすぎて自分を見失いそうな人々が、少しづつしっかりと大地を踏みしめることができるようになる、お約束通り希望と再生の世界だった。

章立てが変わるたびに成長する姉妹、新しいメンバーたち、ただただその繰り返しの長編だが、意図的に2011年が刻まれている。
そう、東日本災害を姉妹・ネネは経験する、被災者としてではなく無力な傍観者として。
何もできない自分たちだけど、今の生活を守ることを優先する、冷静かつ現実的な希望と再生だった。

短いエピローグとして2022年の再会シーンが記される、マスクの下から笑顔が見えるというエンディングから希望が垣間見える。
何の変哲もない40年の記録と言ってしまえばそのとおりなのだが、ぼくはこのような人たちに一度会ってみたいと願ったのも間違いない。

ネネのもとに集まった一人の少年の回顧の言葉が本作すべて物語っている・・・以下 引用する。
《 自分が元から持っているものはたぶん何もなくて、そうやって出会った人が分けてくれたいい部分で自分はたぶん生きているって。だから誰かの役に立ちたいって思うことは、はじめから何でも持っている人が持っている自由からしたら制約にみえたりするのかもしれない。けれどもそのことは自分に道みたいなものを示してくれたし、幸せなことだと思います。》
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