横道世之介 (2015/5/24)

文字数 749文字

2012年11月10日 第1刷、2013年3月15日 第4刷
著者:吉田修一
文春文庫



吉田修一作品をマイ・ブームにしていた時期がある。
僕には作家で本を読む傾向があるが、吉田氏の場合は映画「悪人」がきっかけになって
一気に過去作品をチェックした覚えがある。
恋愛ストーリーにしても、高校生、ゲイ、格差がキーになるカップルなど、
ちょっと身近だけど良くは知らないテーマが新鮮だった。

彼の故郷、長崎を素材として衒い無く繰り返し活用しているのも印象的だった
ある時、どれを手にとっても似たようなものではないか・・・と思ってしまい、
吉田修一作品は取扱い一時停止措置にした。

その頃、発刊されたのが本書「横道世之介」だった。
当時の広告によれば、長崎から東京に出てきた憎めない性格の大学生のお話とのことだった。
迷ったが、結局読まないままだった。
そして先日、毎日新聞の書評「今週の本棚」で、本書が文庫になっていて珍しいスタイルの小説だということを知った。
その方式とは、過去の物語の中で、時折未来に飛ぶ形式(フラッシュバックの逆)とのことだった・・・某作家はそれを褒めていた。
なにやら大きな失敗をしたようで早速、読んでみたという次第だ。

記憶にあった「吉田修一節」だった。
高校時代の恋愛、長崎の両親、一緒に来た同級生、部活の友人先輩、謎の年上美女、
ゲイの同級生、一風変わったお嬢様などなど相変わらずだった。
しかし肝心の手法、未来からの干渉エピソードが効果的だった。
言ってみれば、現在進行形の物語に突然エピローグが挿入されるわけである。
小説を読み切ったカタルシスの代償に、人生の悲哀、歓喜を先取りできることになる。
世之介の人生は果たして充実していたのか、どうか?
「東京湾景」、「パレード」、「さよなら渓谷」とともに好きな作品になった。
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