クララとお日さま (2021/5/10)

文字数 844文字

2021年3月10日 初版印刷 2021年3月15日初版発行
カズオ・イシグロ  訳 土屋政雄
早川書房



毎回作品のジャンルを変えているとしか思えない著者の今作は、ずばり少女小説(風味)。
と言い切ってしまうのはノーベル賞作家には大変失礼になるのだろうか。

AIを搭載したAFというお友達ロボット「クララ」と、ご主人さまの少女ジョジーとの物語、
近未来であろう物語の世界では子供の高度な玩具としてAFが買い与えられる。
病弱な少女ジョジーに買い与えられたのはAFとしては大当たりの出来の良いクララだった。
未来の人間社会は、どうやら全人類の幸福を実現したとは言えないようであり、どちらかというとディストピアの趣が強いのは、「私を抱きしめて」でも指摘されていた人間の傲岸さだった。
本書は そのAFクララの一人称で展開していく。

AF販売店のショウ―ウィンドウで客寄せするクララが見る人間社会の矛盾の数々、
同じAFへの優越感を込めた友情や最新機種に対する嫉妬などなど、少女小説風の幼い言葉で綴られるAFの本音は人間の感情をそっくり真似たものでしかなかった。
当然、近未来と言えども、いや近未来ならではの生きる苦しみが人間たちを圧倒する中で、AFクララは異様なまでに純粋に精緻にジョジーに仕える、そして仕えることに喜びを感じ、その喜びの究極に突っ走る。

本書の前半まで僕は平坦なAFのモノローグにうんざりしていた。
と言って、後半にとてつもないカタストロフィーが用意されていることもなかった。
AFは所詮人間が作った電気製品だと突き放す物語であった。

とんでもなく恐ろしい想いに囚われた。
これは心優しきAFの物語りなんかではなく、すべての人間の未来を指し示すものではないかと?
使い捨てられることに本人は気づくことなく、楽しかった時間と自分の価値を勘違いすることで人生を終える人間たち。
本作に対しておおむね、「美しい小説」という著名人の評判が喧伝されているが、本作はいつものカズオ・イシグロと同じく、強烈な告発を含んでいた。
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