監禁面接 (2018/9/8)

文字数 779文字

2018年8月30日第1刷
著者:ピエール・ルメトール  訳:橘明美
文藝春秋



ピエール・ルメートルの新作紹介にはこれからも「その女アレックスの・・・」という冠がつくのだろうな。
日本で最初に紹介された「その女…」があまりにも強烈な展開だったがゆえに、かって経験したことのないトリックにはまったゆえなのだけど、このヴェルーヴェン警部シリーズは、3作ともに読者の想像を超える構成になっていたので、読み手としてもそれなりの覚悟が必要だった。

で、本作はノンシリーズ、ミステリーの極致を追求するというよりも社会問題に鋭く切り込み、その返す刀で人間の真の幸せを僕に教示してくれる、味わい深い作品だった。
むろん物語の設定は相変わらず驚愕するのみ、60歳前の失業中主人公が、おかしな就職面接を受けることになる、それはテログループ襲撃を装う危機シミュレーションのなかで大企業幹部の適性を判断するというもの。
今時であれば、ありうるような設定だが、そこに待ち受けていたものは・・・・・・?

ルメートル作品の感想文の難しいところは、物語のあらすじすらネタバラシになってしまうこと、したがって、
主人公の悲惨な失業状況と面接試験準備が「第1章 その前」
面接試験会場の大混乱が「第2章 その時」
そして、行先不明のノンストップジェットコースタークライマックスが
「第3章その後」ということだけのみお伝えしておくのが、
ミステリーファンのエチケットだろう。

登場人物は小説だから異様なタイプが大勢出てくるが、主人公とその家族は逆にとてもノーマルな人間ばかり、そんな人たちがどんどん狂わされていく顛末が悲しい。
その状況は、今僕らの日常においても起こりうることだと気づいたとき、恐怖はマックスになる。

サイコパス、殺人鬼がいなくてもこの世の中は十分に怖い、それは人々の心の中に潜んでいる小さな欲望から育っていく。
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