書店主 フィクリーの ものがたり (2016/6/13)

文字数 1,007文字

2015 年10月25日 初版発行
著者:ガブリエル・ゼヴィン  訳:小尾芙佐
早川書房



「本屋のない町なんて町ではない」といって 最愛の妻のふるさとアリス島に本屋を開いたフィクリー。
自分の好きな本しか仕入れない売らない、この偏屈書店主の哀しみと喜びと本の意義を問いかける、文字どおり本の讃歌小説だった。

フィクリーは、その最愛の妻を事故で失い生きる目的を失っていたところ、
2歳の捨て子に出逢う。
養子になった聡明な女の子マヤ、出版社営業パーソン アメリアとの本を通じた運命の出会いと再婚、物語は小さなリゾート島の他愛ない日常が進んでいく。
フィクリーを取り巻く登場人物は多くはない、亡き妻の姉、読書界を開催する警察署長との深い交流がフィクリーの人生を彩る。

各章の扉が短編小説の題名になっていて、フィクリーのコメントが簡潔に記されている:
1.《おとなしい凶器》 ロアルド・ダール(1953)
2.《リッツくらい大きなダイアモンド》 F・スコット・フィッツジェラルド(1922)
3.《ロアリング・キャンプのラック》 ブレット・ハート(1868)
4.《世界の肌ざわり》 リチャード・ボーシュ(1985)
5.《善人はなかなかいない》 フラナリー・オコーナー(1953)
6.《ジム・スマイリーの跳び蛙》 マーク・トウェイン(1865)
7.《夏服を着た女たち》 アーウィン・ショー(1939)
8.《父親との会話》 グエイス・ベイリー(1972)
9.《バナナフィッシュ日和》 J.D.サリンジャー(1948)
10.《告げ口心臓》 E.A.ポー(1843)
11.《アイロン頭》 エイミーベンダー(2005)
12.《愛について語るときに我々の語ること》 レイモンド・カーヴァー(1980)
13.《古本屋》 ロアルド・ダール(1986)

これらの短編小説につけられたフィクリーのメモは折々のトピックスに関して、
娘マヤへの教訓、妻アメリアへの想いが込められている。
短編小説が至上のものとするフィクリーらしい、また書店主が主役の物語らしい構成だ。

僕はといえばジェフリー・ディーヴァーしか知らない警察署長がフィクリーによって読書の範囲を広げ 文学的犯罪小説のマニアになるところが愉快だった。
というのも僕もいまだに警察、犯罪小説の虜になっているからだ。

「本屋のない町なんて町ではない」という思いがいっぱい詰まった本作、
本屋大賞(翻訳部門)なのもよくわかる。
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