兵諫 (へいかん) 2021/10/11

文字数 916文字

2021年7月12日 第1刷発行 
著者:浅田次郎
講談社



「蒼穹の昴」シリーズ第6部、僕は第1部「蒼穹の昴」を拝読した後その後の2部~5部には手を付けないままになっている。
シリーズによっては4巻物もあるし、清朝物語には今ひとつ触手が動かないままだった、(第3部「中原の虹」4巻は積読状態ではあるが)。
途中2~4部を飛び越えて6部に手を出したのは、「兵諫(へいかん)」という言葉に惹かれたから。
二・二六事件と西安事件を「兵諫」ととらえた視点に興味を持った、なにしろ途中の4部も歴史の一コマであるから順不同でも大きな事実に変わりがあるわけでもない。このシリーズの見どころも浅田節を満喫することに他ならないことは承知している・・・すなわち歴史の中に潜り込ませた「大法螺」を味合うというころだ。
日中の両事件を「兵諫」とし、その各々を中国に魅せられた3人によって紡いでいくというスタイルは、話の主語が微妙に変化したりはするが、あの浅田モノローグをベースにした揺ぎ無いメソッドである。

遅くなったが「兵諫」とは主君の過ちを正すため部下が命に替えて諫め行動に移すことというらしい、今までこの言葉さえ知らなかった。
二・二六事件は日本陸軍内の覇権争いな中での兵諫という複雑な構造だったこともあり、中国古来の教えには該当しないかもしれないものの、結果としては陸軍に権力が集中する結果となり日本は一気に戦争への道を速足で進むことになった。
一方の西安事件では、クーデターを起こした張学良が恩赦された裏に一人の愛国者が身を挺して抗日戦線を死守した顛末が描かれる。
どちらも「兵諫」のように見えるが大きな違いがあり、そこに蠢く策謀の数々が本書の読みどころになっている。

前述の語り部3人は、アメリカ人新聞記者、日本人新聞記者、そして日本軍特務機関員(スパイ)、彼らが国家の利害に頓着することなく、純粋な理性で複雑な1936年の中国情勢を解き明かす、きっとこのような世界が当時の混沌の中国には存在していたのだろうと想像した。

本書で「兵諫」という言葉を教えてもらった。
さて今の日本に立ち戻ってみると、
「兵諫」が生じるための基礎要素がまるで見つからない、君主側にも臣の側にも。
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