八月の御所グラウンド (2023/9/2)

文字数 833文字

2023年8月10日 第1刷発行
著者:万城目学
文藝春秋


「鴨川ホルモー(2006)」以来の万城目ワールドを堪能した。
というのは建て前であって、実は著者の出世作についての記憶はほぼ消え去っていた、唯一あり得ないようなファンタジーであったことと清々しい読後感をうっすらと記憶している、そんな程度だから、万城目ワールードと宣うほど著作に接してはいない、申し訳ない。
しかし、本作に微かな記憶であった稀有なファンタジーと爽やかな後味をあらためて確認し、自分の認識の正しさを確認することができた、これこそが万城目ワールドだという。

表題作のほかに短編「十二月の都大路上下ル(カケル)」がセットになっている、古い町京都ならではの切ないファンタジー二本立て、異界と接する若者たちの清廉さに心がフラリと揺れ暖かいものがそっと忍び込んできた。

表題作の「八月の御所グラウンド」は酷暑の夏にプライベート野球トーナメントに誘われた京大生のひと夏のファンタジー、その背景にあるのは太平洋戦争で青春を奪い取られた若者たちの怨念だった。敗戦の暑い夏を偲ぶにはもってこいのエピソードだが、ファンタジーの底が浅いにもかかわらず、構成力でぐいぐいと引き込まれてしまう。
日本版 フィールド・オブ・ドリームズだとしても、因果関係に少しだけ説得力に欠けるかもしれない。

「十二月の都大路上下ル」のほうはずばり京都の風物詩となっている高校駅伝大会が舞台になっている。県代表の中堅クラスの高校の女子チーム、その補欠一年生が主人公、高校駅伝の息詰まる描写は駅伝好き日本人も十分読み応えのあるレベルに仕上がっている。
ファンタジーの要素が限りなく小さい、それをファンタジーと呼んでいいかどうか判断に困った。でも そんなミニマムなファンタジーだからこそ、ぼくは心が躍るのだった。

両作品共にスポーツを舞台にし京都ならではの異界接近が設定されているが、もしもどちらもお好みでなくても万城目ワールドを愉しむことができることは保証する。
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