パリのアパルトマン (2020/8/9)

文字数 894文字

2019年11月25日 第1刷
著者 ギョーム・ミュッソ  訳 吉田恒雄
集英社文庫



ギョーム・ミュッソの前作「ブルックリンの少女」における展開想像力に圧倒された。
なんと見事なフィクションを滑らかに語りつくすのか!・・・と
本作は「ブルックリンの少女」の大ヒットに続くノンストップサスペンスエンターテイメント
に違いはないのだけど、僕は本作のほうが旧い出版だと勘違いしていた。
だから読み進んでいく途中でいつも、「ブルックリンの少女」の原型としていくぶん批判的に見つめていたところがある・・・ここはそういうふうに進化したのね?なんてね。

と云うくらい、物語の設定に共通点が多いのである、パリ・ニューヨークの二都物語での事件展開、警官と文化人コンビの捜査活動、長き間隠されていた悲惨な事実、そして肝心な謎ときの奇想天外、ある程度著者の性格を見越していろんな角度から真相と結論を想定した僕だが、ことごとく外れてしまった快感に、またもや圧倒されっぱなしだった。

例によって、ギョーム作品の内容をダイジェストすることは困難だし、倫理に外れるので差し控えるが、大筋は以下のとおり:
人生に打ちひしがれた男女がパリのレンタルアパルトマンで偶然出会い、
そのアパルトマンの持ち主であったアーティストの不可解な死亡事件に引き込まれ、
ニューヨークに赴いて捜査、押し寄せる謎を解明し真実にたどり着くと、そこには・・・。

繰り返しになるが、「ブルックリンの少女」との類似性が数多く見て取れる。
冷静に比較考察してみると、しかしながら、本作は夫婦、親子、家族の愛憎の各種パターンをベースに置いたため、ミステリーの鋭さが削がれているところが前作との大きな相違だろう。
もっとも家族間の愛憎の裏に隠された真相にまで及ぶプロット構成はメロドラマ濃度とも相性が良く、結局は「ギョームミステリー」の威光を高めることになっている。
と称賛しながらも、多すぎる不幸な男女、親子の登場に僕の感情はいくぶんささくれ立ってしまう、たとえ安っぽいハッピーエンドが用意されていたとしても。

もう一冊、ギョーム・ミュッセを読んでみなければいけない羽目になってしまった。
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