真珠とダイヤモンド 上・下 (2023/2/21)

文字数 620文字

2023年1月20日印刷 2月5日発行
著者:桐野夏生
毎日新聞出版


今では遠い昔話、年寄りの繰り言とも言われかねない「バブル時代」のお話。
1951年生まれの桐野さんは僕(1950年生まれ)と同じくそのバブル期を生き残ってきた者とすれば、あの時代を懐かしさで思い出したい気持ちになるのもよ~くわかるが、桐野ワールドのお約束である「女の戦い」は本作には微塵もなかった。
哀しみに満ちたプロローグ・エピローグの現在から、1986年~1991年の5年間に立ち戻る構成は、常に現時点での女の戦いを鼓舞し慈しんできた今までの作風から到底想像できない展開のまま終章に至る、言い換えればジェンダー意識の欠如した退屈な読み物にしか過ぎなかった。
最近作「燕は戻ってこない(2022)」にもその傾向があったが、それでも虐げられた女が放つ最後の一撃が読後のカタルシスになったことが唯一の救いになった。

しかし本作はバブルでの株にまつわる人間の狂気が主役であり、男も女もその渦に巻き込まれるだけの役割しか与えられていない。
日本における女の地位・権利が本作で描かれたように30年間全く進化していないことを冷静に考えると、桐野ワールドの行く末さえも心配になる、作者の理念と言えば大仰だがそこが揺らいできてはいないか?
女の活力にとどまらず、日本人すべてが意気消沈していることに対する桐野さんなりの反応なのか?
みんなでバブル時代を懐かしむ、そんな老人ばかりが長生きする日本になった。
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