夜の果てまで (2016/11/14)

文字数 664文字

「湾岸ラプソディ(1999年)」改題、2004年2月25日文庫初版発行、 2005年15版発行
著者: 盛田隆二
角川文庫



これまで生きてきて読書してきて、
名作と称せられている読み物で全く知らなかったものの一つ。
著者はリアリズムの名手だと言われているが、本当に接することがなかった。
物語は、学生と人妻の駆け落ち(失踪)をリアルに描くものだった。
解説の佐藤正午氏の一説がその全貌を適切に表現している、以下に一部引用する:
『 誰にも探してもらえない。それが盛田隆二という作家の目がとらえた失踪の現実である。
この作家の関心は失踪の謎や理由にではなく、失踪する、せざるを得ない人間と、その周囲の観察に集中している。だから、もうここまで、これ以上は要らないという日付で小説は終わってしまう。また同時に、これ以外はない、誰にも探されなかった失踪者の証明である「失踪宣告申立書」という一枚の紙切れで小説は始まる。リアリズムとはつまりこういうことをいうのだと思う。』

佐藤正午をして嫉妬させた本作は、しかしながら若者の初心な純愛物語と言ってしまうこともできる。
美しく怪しい家庭教師先の奥様に魅了される大学生。
そのひとには暗い過去がありそうだし、今の家庭環境も複雑で尋常とも思えない。
若い大学生が自分の将来を投げ捨ててでも守りたいという気持ちの底には愛欲も燃え盛っている。
世間知らずだからこその純愛物語とすれば、あまりにも定番のテーマだが,そこにあるのは鬱陶しいほどのリアリズム。
読み進むほどにそのリアリズム中毒に捕らわれてしまう。

読んでみてよかったな。
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