六月の雪 (2018/12/20)

文字数 564文字

2018年5月30日 第1刷発行
著者:乃南アサ
文藝春秋



台湾国、台南市に1週間旅する悩めるアラフォー女性の七日間。
旅のついでのレポート小説であることは間違いない。

主人公 未来(ちゃん)は祖母が台湾で生まれ育ち、終戦とともに日本に強制帰還させられた事実を知り台湾に旅に出てみようと思う。この顛末に無理やりなところは感じられなかった。
というのも、僕自身父親の生まれた満州・奉天に父と一緒に旅した経験があるからだ。
父が生まれた場所が日本ではなく、当時植民地的属国の立場の異国とはいかなるところなのだろうか?
そんな素直な感情と、父にもう一度思い出深い場所に戻ってみてほしかった。

本作では、主人公は祖母が台湾生まれであることを知らず、台湾統治の歴史的事実にも知識がないことになっている。今の30代の女性はそんなものだろう。
しかし、戦後台湾の人たちが40年近く戒厳令のもと自由を奪われた生活を余儀なくされていた事実は多くの日本人も知らない。本作では、現在の台湾繁栄の礎になった日本の影響の過去を訪れると同時に、過去に束縛されることなく未来に向かう日台の人たちが暖かく描かれている。

台南市の7日間で巡り逢う心優しい人たち、そしてその悲しい思い出を支えに強く生きる決意を決める主人公。
日台友好記念小説らしい毒のない物語だった、そして薬もなかった。
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