帰ってきたヒトラー (2016/4/30)

文字数 870文字

2016年4月20日 初版印刷、4月30日初版発行
著者:ティムール・ヴェルメシュ  訳:森内薫
発行:河出文庫



憲法、経済、安全保障、エネルギー、少子化などの問題をこの本一冊で考え直すことができる・・・かもしれない。
必読の名著だと思った。
小説のお話であるが、2011年 アドルフ・ヒトラーがベルリンの路上に忽然と現れる。
総統地下壕で自殺したはずの、120歳以上になってるはずのヒトラ-が蘇えるところからこのコメディが始まる。
物語はヒトラーの一人称で語られていく、つまりヒトラーの思考が全編続いていく。
このタイムスリップの結果、ヒトラーは物真似お笑い芸人として強烈デビューを果たし、テレビ界でそしてマスコミ界で成功していく。
ヒトラーは、前述のとおり1945年までの思考回路で現代ドイツを品定めしていく、
それは寸分のブレもなくナチスのヒトラーのままだ。
そう言ったヒトラーの言動が、お笑いの種になるというが、僕には全くジョークにも思えなかった。

思い起こせば、ナチスが台頭し、最後はドイツ民主主義に則り正当に選ばれたのはそこに民衆の支持(または不満)があったからだ。
いわゆるドイツ国民全体が加担したナチスであり、ヒトラー総統だった。
だから戦後ドイツは、「ナチス」、「ヒトラー」のたぐいの言葉、思想を禁止し、ヨーロッパ文明に釈明してきた。
先般の中東移民流入の際にメルケル首相が頑なにドイツの義務を強調したのも、この反ナチ政策に尽きる。

翻って、ナチスが、ヒトラーが政権を取れたのはどんな魔法を使ったのだろうか?
そこにはヒトラーが現実を冷静に観察し、再解釈し、結論として既存価値観の打倒を唱え国民の共感をもぎ取った経緯を思い出す。
今ドイツをはじめとするヨーロッパ、アメリカ、そして日本で富の不平等な配分が持たざる者の大きな不満になっている。
今、リベラリズムもファシズムも既存権威を非難する。
もしかして、時代はまた巡ってくるのではないか?
差別され、搾取され続けたものがその怨念を晴らす方法はどこにある?
ヒトラーの躍進は過去の歴史ではないのかもしれない、もはや。

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