ワイルドサイドをほっつき歩け (2020/6/25)

文字数 844文字

2020年6月5日 初版第一刷発行 6月15日初版第二刷発行
著者 ブレイディみかこ
筑摩書房




「僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー」では英国底辺でしぶとく生きる労働者階級のアイルランド・日本の血を持つかなりクールな息子を中心にした英国の普通の生活下に生まれつつある新しい英国魂を、さわやかにレポートしてくれた、ブレイディみかこさんの最新作。

今作の主役たちは著者が生活するブライトンに巣食う「オッサンたち」、著者の連れ合いの幼馴染たち(皆60歳代中ごろ)の奇妙で頑固で心優しいエピソード満載のエッセイ集になっている。
ノンフィクション風を装って入るが、僕はかなりの著者の思い入れと創作が盛り込められていると感じた。
何せ、登場する「オッサンたち」十数名はそれぞれ仮名だとの但し書きがあるのは、個人情報管理の名目であろうが、こんな魅力的な「オッサンたち」が大勢周りにいるとも思えないのだが、果たして真相はどうなんだろう?

21編のエッセイを貫くテーマが「EU離脱」、労働者階級の「オッサンたち」がどのような信念で離脱を信じ、どのように騙されたか、そしてEU残留を支持した若者たちとの不毛の論争、「英国のオッサンたち」は間違いなく「日本のオッサンたち」より政治的である。
財政緊縮の逆境のなかにおいても、フットボールの熱狂し、老いらくの恋を求め、医療福祉崩壊に立ち向かい、病気・死、パブの終焉、(著者自身の問題でもある)移民差別などが21編に描かれ、本音の英国が見えてくる。
といっても、ブレイディみかこさんの筆に掛かると国の大変革「EU離脱」すらも笑いと涙のなかに取り込まれていくのはいつもの通り。
相変らずの皮肉スパイスの良く効いた、そして哀愁に満ちた文章に魅せられっぱなしだった。

英国階級の細分化やその格差などの現状考察も書下ろしで加えられている、英国の底辺事情がよくわかる。

なによりもグローバリズムを拒否することなどできないことを知りながら、英国労働者の矜持を守る「オッサンたち」が愛おしかった。
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