ベルリンは晴れているか (2018/11/25)

文字数 883文字

2018年9月25日 初版第1刷発行
著者:深緑野分
筑摩書房



本の帯に描かれた宣伝コピーから・・・・
「戦争が終わった。 瓦礫の街で彼女の目に映る空は何色か  ヒトラー亡き後、焦土と化したベルリンで一人の男が死んだ 孤独な少女の旅路の果てに明かされる真実とは 」

主人公は17歳のドイツ人少女アウグステ、両親は反ナチ運動者として亡くなり、独りぼっちで終戦直後の混乱のベルリンで生き延びている。
ベルリンは連合軍の空爆で焼け野原となり、ソビエト・アメリカ・イギリス・フランスによって分割統治が始まったところ。
戦争中かくまってくれた恩人の死(殺人?)を巡り、ソビエトNKVD(後のKGB)からその調査を強制されるまだ廃墟から煙が立ち上り焼死体があちこちにみられるベルリン市内をさまよう少女に迫るトラブル。
物語は途中で少女が生まれた時点、その後の成長の節々に立ち戻り、少女がベルリン市民が、そしてドイツ国家がナチスに束縛されていく様子、その体制に抵抗する人々の悲しい死を織り交ぜながら、戦後ドイツ復興の第一歩を見守る。

少女が瓦礫のなかを目的地に向かう間に出会う様々な人々、本作は戦争によって傷つきながらも生き抜こうとする人間の本能をたたえる。
とはいえ、そんなストーリーのなかにミステリーも織り込んでいるが、これはどうも薄っぺらくて無理やり付け加えたように思える。

何といっても本作の優れたところは、この徹底した微細な戦後ベルリンの描写を日本人作家が成し遂げていることだろう。
ノンフィクション書籍の数々、地図、映像、小説までもが参考文献として並べられている。
近年のネット情報も大きな参考になったようだ。
先般手にした「スイングしなければ意味がない(佐藤亜紀)」も戦時下ベルリンの若者たちの生きざまを描いていて驚かされた。

今、ナチスドイツを舞台にした小説が日本人の手になることに何か意味があるのだろうか?
僕が感じたのは、主人公アウグストが体験したナチス下の社会は、いつの時代でもどこにでも起き得る、再発する恐れだった。
かって日本が太平洋戦争で多くの人命と財産を失い、その心まで失ったように。
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