おもかげ (2017/12/25)

文字数 791文字

2017年12月5日発行
著者:浅田次郎
毎日新聞出版



本作品がクリスマスの奇跡に関係していることなんか、ちっとも知らなかった、読む前には。
そして今日12月25日に僕は本作を読み終える。
浅田ワールドの一番厄介なテイスト「泣き感動」に満ち満ちた作品だ、でもそれだけでは済まない仕掛けがあった。
本作の主人公は1951年12月25日生まれ、65歳の定年のお祝い会の帰りに、地下鉄の中で倒れてICUに運ばれる。
1951年生まれの浅田さんご自身の人生終焉の思いが色濃く込められた内容になっている。
そして僕は1950年生まれ、ほぼ浅田さんが描く本編主人公と同じ時代を生きてきた、出世した主人公との大きな違いはあるが会社勤めを全うしたのは僕も一緒だ。
当然ながら主人公を他人ごととは思えなかった、
そしてまんまと浅田ワールドに絡め獲られてしまう。
ICUのベッドに横たわりながら、見舞いに来る妻、親友、娘婿たちの行動を冷静に見守る主人公、そう 瀕死の状態でありながら聞こえるし見ることもできる。

ただし、感謝の意を伝えることができないもどかしさと、
一方では65年間の人生を顧みる余裕が主人公の胸に往来する。
そして不思議な体験、臨死体験といってしまうにリアルな夢のような体験、
いったいこれは何がなせるものなのか?

本作のキーワードは「メトロ(地下鉄)」、「メトロに乗って(1995年)」で物語の核になった東京の地下鉄を再び登場させる。
これはネタ切れの苦し紛れではなく、本当に浅田さんが地下鉄を自分の青春の一部とみなしているからだろう。
本作でも地下鉄巡りの途中で僕は切ない溜息を何度も飲み込んだ。

クリスマスの奇跡と、先に申し上げたがそこに宗教的な意識はない。
日本人が寄ってたかってその宗教性をはぎ取った後のクリスマスだからこそ、
こんな奇跡が起きるのに違いなかった。

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