人新世の「資本論」 (2021/2/26)

文字数 1,142文字

2020年9月22日 第1刷発行 2021年1月30日 第7刷発行
著者 斎藤幸平
集英社新書



僕のお気に入りの政治学者で、昨年「武器としての資本論」を刊行した白井聡さんが
本書を評して・・・
《マルクスへ帰れ・・と人は言う。だがマルクスからどこへ行く?斎藤幸平は、その答えに誰よりも 早くたどり着いた。理論と実践の、このみごとな結合に刮目せよ。》

手にしないわけにはいかない。

起承転結のメリハリの利いた、なおかつ分かりやすい文章、まるでよくできた小説を読んだ
ような満足感・達成感を感じたのは本書がマルクスを梃にして地球気候危機への対応を論じているからだった。
そのとおり まずは論理的、それでいて叙述的。
気候緊急事態に立ち向かえるのは「資本論」であるとしながらも、それは未完の「資本論」であり、著者は晩年のマルクスの膨大な研究メモからマルクスを忖度する、まっこと論理であり叙述である。
その論理の流れを章立てでお知らせしておくと:
 SDGsは「大衆のアヘン」である!
 気候変動と帝国的生活様式
 気候ケインズ主義の限界
 資本主義システムでの脱成長を撃つ
 「人新世」のマルクス
 加速主義という現実逃避
 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
 脱成長コミュニズムが世界を救う
 気候正義という梯子
 歴史を終わらせないために

お察しの通り、この章タイトルだけからでも興味津々な読書マインドが湧き出てくる。
マルクス「資本論」をネタにしているからには、当然あの意味深い(意味不明)の文章も顔を出してくるが、ここでも著者は見事に自分の論理に組み込んでいく、それは未発表の晩年マルクスを忖度したのと同じように。

さて、先日我が国も唐突に「カーボンゼロ」宣言をしたようだが、そのベースになる思想などは欠片もうかがえないし、到達のためのプランも当然ながら何もない、ただ言っただけの無責任さ丸出しだった。
2050年までに地球は気候変動で壊滅する方向が定まるという危機感から本書は「緊急事態宣言」の体裁となっている。これほど面白い環境危機への提言はないに違いない。
ご参考までに、最終章「おわりに―歴史を終わらせないために」の一部を抜粋してみた、
・・・ご興味が出るように。

「前略~
左派の常識からすれば、マルクスは脱成長など唱えていないということになっている。
右派は、ソ連の失敗を懲りずに繰り返すのか、と嘲笑するだろう。さらに、「脱成長」という言葉への反感も、リベラルの間で非常に根強い。それでもこの本を書かずにはいられなかった。最新のマルクス研究の成果を踏まえて、気候危機と資本主義の関係を分析していくなかで、晩年のマルクスの到達点が脱成長コミュニズムであり、それこそが「人新世」の危機を乗り越える最善の道だと確信したからだ。
~後略」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み