海賊と呼ばれた男 (2014/1/30)

文字数 879文字

2012年7月初版、2013年4月 19版(の中古)
講談社
著者:百田尚樹



手に取るまでにかなりの抵抗感があった。
百田さんの他の著書は「永遠の0」しか知らないが、
こちらは何も知らずに読んでしまった経緯がある。
ところがこの「永遠の0」が異常なベストセリングになり、まだその記録を更新中とのこと、
メディア・ミックス成功の模範例だろう。

ただし「永遠の0」の読後感が爽快でなかったこともあって、
本作が2013年「本屋大賞」作品であるにもかかわらず、読むことすら躊躇しっぱなしだった。
広告コピーを知れば知るほどに、その想いは深まっていた。

僕の働き盛りのころ、「出光」さんとイタリア関係のビジネスをしたことがある。
その時、出光企業の生い立ちもいろいろと見聞きすることがあった。
さすがに、本作のクライマックスである「日章丸事件」はリアルタイムでの記憶はないが、
事件としての知識はあった。

この企業、創立者をテーマにした百田さんの小説…と言うだけで、
ある程度その深さも密度も想像できた。
きっと息もつかせぬ展開の英雄伝なのだろうと決めつけていた。
だから読んでみてもしようがない…と思っていた。
しかしそう思い込んでみても、
実際に読まないぶんには批評はできないことも一方の真実である。
こんなばかばかしい葛藤の末、
そしてようやく中古本も出回ってきたところで読んでみようと決心した。

気持ち悪いくらい予想通りの面白さだった。
そして、違和感を覚えた。
「永遠の0」の時と同じ感覚だった、いったいこれは何なんだろう?

ベストセラー作品を批判することになるが、この2作とも小説としての手ごたえがない、
耳から入ってすっと片方の耳から抜けるイージイさが気になる。
たとえれば、小さい頃ラジオの時間でよく聞いた「講談」のテイストだ。
講談には、「義理」、「人情」、「献身」、「義侠」がよく似合う。
今の時代に照らして言い換えれば「電気紙芝居」の面白さなのだろう。
本作品の根幹にあるのは日本人DNAに巣食うその民族性なのだろう。

「日本の将来」、「日本人の理想像」が
受け入れられる危険な時代になってきたのだと痛感した。
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