ある行旅死亡人の物語 (2023/3/26)

文字数 799文字

2022年11月30日 第1刷 2023年2月5日 第4刷
著者:武田惇志、伊藤亜衣
毎日新聞出版


近年 骨太ノンフィクションを渇望して久しかった。
思想、学術、芸術分野ではない取材ベースのノンフィクションを。
その意味で、共同通信社記者二名にによる本作は待ちに待った作品、僕の欲求不満解消にドンピシャリだった。
行旅(こうりょ)死亡人とは、身元が判明せず引き取り人不明の死者をさす法律用語であることも知ることになるが、何よりも二人の記者が章を交互に交替して書き記していく調査実態は嘘の尽きようのないドキュメンタリーとして稀に観る秀逸なレポートになっていた、これぞノンフィクションと思った。

官報に掲載された行旅死亡人をネタ探しの一つとして探す遊軍記者の偶然から始まるジャーナリスト魂が全編を貫いている。著者たちは、事件記者としての仕事の合間に自費で本作の主人公(?)である行旅死亡者の調査を始める。
一年間の聞き込みの途中、警察も弁護士調査員もプロの探偵もたどりつけなった真相に迫る経過に僕は胸の高まりを抑えられなかった。
彼らの手元にあった手掛かりは僅か:
●虚偽記載のアパ-ト契約書
●古い写真
●名前と異なる印鑑
●右手指全欠損
●現金 3400万円
姓名・年齢も怪しい、年金手帳、健康保険証、通帳など身分を証明するものが一切残されないままアパートで死亡が確認された主人公。
記者は犯罪の匂いを嗅ぎつける、当然読む僕もただならぬ展開に息をのむだけ。
調査はどうしようもなく滞るかと思うと、思いがけない糸口が現れたり、まるで上質の探偵小説を読むかのようだった。

これはすべて実際の物語りだと何度も自分に言い聞かせながら、行旅死亡人の真実にたどり着くまでのエンターテイメントを満喫した。
事実は小説よりも奇なり。
さて本当に真実は明らかにされたのだろうか? 
もしかして何か隠されたものがあるのではと思わされるほど一級の読みものだった。
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