王国  (2022/6/3)

文字数 1,045文字

2015年4月20日 初刷発行、2017年10月30日7刷発行
著者:中村文則
河出文庫



2011年刊行の文庫化(2015年}の第7刷(2017年)を今まで読み忘れていたことに気づく。
ここまで11年の年月が経過していたが、物語りのテーマ、その鮮度はいささかも損なわれてはいなかった。
ところで、5年間も購入した書籍に気づかないまま積読状態になっているのは、軽いボケの兆候なのか? と訝りデスク周りを探すと、多数の積読書籍が顔を出してきた、ヒョッコリと。
当分新刊書に手を出さなくてもいいのだと、ニンマリしている自分が怖い近頃である。

閑話休題、
本書は10年余りの歳月を経ても、中村文則世界が色濃く描かれている、つまりは難解メタファー物語りであるというわけだ、
主人公は正体不明の闇組織からの依頼で要人をハニートラップに陥れる凄腕美人エージェント、訳あって多額の資金調達のため悪稼業にどっぷりと浸かっている。
そんな主人公が今度は反対に絶対悪的存在という男にからめとられていく後半の絶望パートが強烈に僕の感性を揺さぶる・・・死ぬわけにはいかない、必ず生き抜いて見せると抵抗をサバイバル繰り返す主人公、そんな彼女を軽く払いのける悪の権化のような男、そこに人間が抗うことができない神の存在を(むろん悪の神だと思うが)感じる。
前述のとおり難解路線ジャンル作なので、文章一つ、用語一個に意味深いニュアンスがあり、しかしそこに囚われたままだと全く全体像が見えてこない、感じ取れない。
最新作「カード師(20121年)」に見えた未知の難解さとは違って、すぐそこに手が届きそうな焦燥を感じる親近感があるだけ厄介だ。
暴力、エロ、にまみれた異次元世界が一転して、日常に転化してくる安心感と裏腹な絶対的虚無が本書のテイストだった。
この後の中村ワールド、「去年の冬、きみと別れ(2013年)」や「私の消滅(2016年)」にある、難解の中での物語作法すら皆無だった。
ひたすら狂おしいほどの絶望にさいなまれる、それも本書を読む一時の愉しみではある。

本作が著者10作目ということもあって、自身が裏テーマを語っている、ご参考までに引用しておく: ー抜粋引用ー
本書は「掏摸(2009年)」の兄妹編で、両作に登場する男を神的なものとして、その流れとして旧約聖書から新約聖書の構図となるはずが、男(神)の要求や思惑を裏切り刃向い続けるというキリスト教異端グノーシストの構図に変化した・・・・・
・・・ということでこりゃ~ 理解するのは簡単ではない。
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