猿の見る夢 (2016/9/29)

文字数 522文字

2016年8月8日 第1刷発行
編者:桐野夏生
講談社



新刊紹介に「魂燃え」の男性版という妖しい表現が気になっていた。
もともと、桐野夏生ワールドには
男性が自立するようなシチュエイションなど想像できないからだ。
案の定・・というか 「男の魂燃え」というのは悪い冗談だった。

それでも、主人公に59歳のどうしようもないくらい一般的な親父を配したのは前代未聞のこと、それなりに楽しませてもらった。
実際には自虐的お愉しみであって、読んでいくほどに男の情けない本音に、我が身を振り返ることになる。

この男、大手銀行から出向したファストファッション企業の平取締役、それなりにプチブルジョア(小市民生活)を満喫している。
10年来の愛人に加えて、可愛い会長秘書に色目を使い、母親の遺産を当てにして老後の二世帯住宅計画を勝手に夢見ている。
こんな身勝手な男に降りかかる不測のアクシデントの連続。
その場しのぎの対応でますます身動きできなくなる情けない男。

はじめて桐野ワールドに主演した男性だったが、結局は妻、妹、愛人、恋人の女たちの前に屈し、敗北していく。
予想できた展開とはいえ、工夫のない物語だった。
こうして、男たちは下流老人になっていくのでしょう、経済的にも品性においても。
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