地中の星 (2021/10/16)

文字数 869文字

2021年8月25日 発行 
著者:門井慶喜
新潮社



「日本地下鉄の父」と呼び称されている・・・とのことだが僕は全く不勉強で本作主人公のことは、存じ上げなかった、そのくらい地味な人柄だったのかというとそうではない。
タイトル「地中の星」は「地上の星」を捩っている、
テーマは初めて日本に地下鉄を建設しようとした主人公とその仲間たちの、
プロジェクトXだった。

プロジェクトXを小説にした以上、事実関係を歪めることはなかったことと思う、それにしてもほかに前例のない事業を成し遂げる人間たちの心意気が、これほどまでに小気味の良いものとは
思はなかった、その効能にあらためて心を震わせてしまった。
思えば、現在日本にはプロジェクトXに値するものがあるのだろうか、
秘密のベールに包まれて僕などには窺い知ることもないのだろうか?
NHK番組でたくさん紹介されたプロジェクトXたちも、そういえばその時点での過去の物語ばかりだった、きっと今この時においても日本でプロジェクトXが静かに進行していることと願う。

本作は、時代をもっともっとさかのぼる、1920年に設立された東京地下鉄道株式会社のプロローグから書き起こし、太平洋戦争下に営団に強制集約されるまでのすべてが語られている
…プロジェクトX風に。
本書の大きな特徴はプロジェクトXならではの様々な技術屋たちの奮闘がその一つ。
大倉土木の「土留め杭打ち、覆行、掘削、コンクリート施工、電気設備」の5部門が直面し解決していく難問、または事故対応。
5部門の監督を統括する総監督の想いも細やかに描かれている、プロジェクトX面目躍如の数々があった。
もうひとつのテーマは、主人公と彼を父と尊敬しながらも果敢に事業乗っ取りを試みる五島慶太との愛憎関係だった。
実業家として死力を尽くして戦う二人、これも別の意味でプロジェクトXだった。

大隈重信、渋沢栄一、後藤新平らそうそうたる実力者を説得していく主人公、こんな覇気を持つ人物を今は想像することもできなくなった。
地中の星でもいい、見えなくてもいい、日本の星はいつになれば現れてくるのだろうか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み