華麗な復讐株式会社 (2023/6/23)

文字数 858文字

2022年7月6日 初版第1刷発行
著者:ヨナス・ヨナソン  訳:中村久里子
西村書店


著者デビュー作「窓から逃げた100歳老人(2009)」を読んだ時の衝撃をいまだに忘れられないでいる。小説は作り物であることぐらい重々承知しているが、あまりの荒唐無稽な展開に見事に嵌まった記憶がある。敬愛する小松左京氏の「小説はすべて法螺と噓」の言葉を超える著者の快進撃は続く。

「国を救った数学少女(2015)」はデビュー作を踏襲したテーマだが主人公が黒人少女、スウェーデン国王まで引っぱり出す歯止めなき大法螺に満足した。
しかしその後「天国に行き
たかったヒットマン(2026)」はスウェーデン国内にとどまり宗教をテーマにしたこともあって、ぼくの感性に触れることなく肩透かしを受けた。
4作目は未読、期待感にあふれて本第5作に手を付けたのにはこんな歴史的背景があった。

長い前置きで恐縮だが、本作が今までの破天荒を維持できないようになったという証にしたかった。
舞台はスウェーデンだがもう一ヵ所アフリカに重要な意味を持たせている、それも未開のケニアの奥地。タイトルの「華麗な復讐株式会社」は主人公たち(2~4人)の復讐話を総括するものだが、中身は現在の世界分断をメタファーし、あるいはストレートに批判する政治的メッセージが根底にある。
と言っても、混乱するばかりになると思うが、実際に本書はあらゆる方向にテーマが錯綜している。
個人レベルの復讐請負業、虐げられた芸術家、埋もれた名画、アフリカ呪術と近代医学、世界レベルの地域格差、恋愛の不可思議・・・
そのひとつひとつに「大法螺」が仕込まれているのだが、その大法螺が集まり目指す先が不明瞭になっている。
これをして、著者のアイデア枯渇のせいにすることもできないだろう。
現実は、もはや大法螺を吹いてお楽しみにする余裕のないところにまで来ているという著者の警告とも受け取れる。

とはいえ、小説くらい現実逃避の手段として残しておきたいと思う、たとえ世界が分断され衝突の恐怖がそこまで忍び寄ってきているとしても。
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