ザリガニの鳴くところ (2011/9/15)

文字数 891文字

2020年3月15日初版発行 2021年4月14日 18版発行 
著者:ディーリア・オーエンズ  訳:友廣純
早川書房


著者オーエンズ氏は1949年生まれ、僕と同年代の女性動物学者、
本作が初めての小説だとのこと、70歳での処女作と聞いて同じ団塊世代らしい底知れない活力を感じる。物語は典型的なガール・ミーツ・ボーイ、主人公が女性なのも先鋭を好むベビー・ブーマーらしい。

主人公少女が6才(1952年)から24歳(1970年)まで、ノースカロライナ湿地で孤独なに苛まれるる特殊な環境が大きなテーマになっている、彼女を称して「湿地の少女」、僕ら世代にとってはロビンソンクルーソーがそのイメージするところか。
著者の人生と重なり合う時代背景だが、動物学者の夢を主人公に具体化し、おまけに理想の恋愛までちゃっかりと付け足していた。
それを初々しいと愛でるか、拙劣と評価するかに関しては圧倒的多数の共感・支持を得ていることからビギナーズラックと言っておきたい。

身内がだんだん去っていき一人残された少女のサバイバルが序章、
年上の少年との幼い恋心、彼の献身的なサポート、
品のない、しかしハンサムで人気者のボーイフレンドとの危ない関係、
湿地の生物研究成果が認められ出版に至るサクセスへの道のり、
そして、ボーイフレンドの不審な死と少女への疑惑騒動が大きな転換章、
逮捕、裁判の中で見えてくる住民の偏見とわずかながらの仲間たちの信頼、
ここから、物語はミステリーの趣を帯びてくるのでこの後の展開は申し上げないでおこう。

しかし、僕にはここまでのプロットが読めたと同じように、その後のクライマックスもかなりはっきりと見えていた。
その通りの結末になったが、だからと言って自分の推察力を自慢する気にはなれなかった。
本小説は、読者が期待する方向へ必ず転換していく、読者を欺くことを最優先する近年の小説作法とはまるで違って。
最後の最後の秘密にしても、おそらく顧客(読者)はきっと「そうだよね、それでよかった」と思うに違いない。

すべては著者の真摯な人間愛に基づくものだった。
人間も動物だとすれば、著者はさすが優秀な動物学者だった。
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