それまでの明日 (2018/3/11)

文字数 765文字

2018年3月10日 印刷 2018年3月15日発行
原尞
早川書房



14年ぶりの原尞作品というか「沢崎シリーズ」に再会できて感無量だ。
遅筆作家という自虐的開き直りもこうまで長引くとあきれてしまう、
でもじっと待つのがファンの真情なのだ…14年も!
「そして夜は甦る(1988年)」、「私が殺した少女(1989年)」、「さらば長き眠り(1995年)」、「愚か者死すべし(2004年)」に続く長編5作目の本作。
30年で5作しか書いていない、それも一人の私立探偵物語を執拗に書き込んでいる。
「私が殺した少女」は直木賞に選ばれている、2作目で受賞してもそのあと29年間で3作しか仕上げない。

沢崎探偵シリーズは、日本では珍しいドライなハードボイルド小説、そのレベルは極上プレミアム。このシリーズを14年待ち焦がれた、そして裏切られることなく極上の読後感に浸っている今宵だ。
原尞さん自ら標榜しているように、また作品タイトルからも察することができるようにレイモンド・チャンドラーが好きで憧れている。
僕もマーロウ作品が好きで憧れているが、だからといってハードボイルド日本人探偵を創造することはできない。

西新宿の老朽ビル2階に事務所を持つ探偵の最新作、沢崎は55歳になっている。
女性の身辺調査依頼から、銀行強盗に巻き込まれ、広域暴力団に狙われ、新宿署の刑事と揉めるだけでは真のハードボイルドにならない。
中年になった沢崎が人間として見つめる人々の裏側、その悲しみ、やるせなさが物語を貫いていく。

ネタバレなりそうだが、3月11日の今日、本作を読んだ、その結末に息を止めた。
ここまで愛すべき登場人物を突き離す無情に探偵の業を感じる、ハードボイルドの極致だった。

本の帯にある原尞の言葉  《小説の本当の面白さだけを考えて三十年間書きつづけてきた》 
その通りだった。
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